服に関する話


2020.11.12
Mパターン研究所の基準「腕周り」の重要性

サイズのご質問にはMパターン研究所独自の採寸データが必要です。その中でも最も重要なのは「腕周り」です。
広く一般的でない箇所なので採寸データに無かったり、「腕周り」って必要ですか?とおっしゃるお客さまもいらっしゃいます。
「腕周り」という言い方が独特で間違えやすいかもしれませんが、ようは肩の周り、肩と洋服の収まり方がサイズを決めるという考え方です。

女性の方は注文服のお店に行ったことは無いかと思いますが、男性の仕立て職人が、スーツを試着しているお客の両肩のあたりを押さえて、入念にチェックしている映像はどこかで見た事がありませんか?肩の収まりをチェックしているのです。それによって洋服の見え方、印象が決まります。とても重要なチェックです。それはスーツだけでなくすべての服に当てはまります。
そんな事を全く知らない人でも、洋服を試着した時に肩の位置、肩のゆとり、収まり感をチェックしませんか。

Mパターン研究所の服作りは、ある程度ゆとりがあって動きやすいのに、肩回りのフィット感があり太って見えず華奢に見える事が最大のポイントです。そのために「腕周り」という独自の基準を設定して、サイズ選択の基準にしています。

あくまで私たちの私見ですが、ここが分からないと服のフィット感が分からない、大変重要な箇所だと思っています。

2020.10.5
ある意味良い時代を経験したことに感謝

アパレルメーカーに関わらず、ここ20年は激動の時代だったと言っていいと思います。あらゆる業界で仕事の質は変わり、効率や量が優先される時代になりました。技術のある職人タイプの仕事人はリストラされて別の仕事に就いています。高いけれど素晴らしい商品よりも、まあまあだけどとにかく安い商品が主流になりました。幅広い人に、たくさんの商品が手に入るようになりました。

アパレル業界でも本当に腕の良いパタンナーが転職して一般の仕事をすることになるのを何度も見てきました。その中には私たちよりも技術のあるパタンナーさえいました。もったいないですが、仕方がない事なのだと思ってきました。
今ではコムデギャルソンなどのハイファッションブランドとファストファッションにはっきりと二極化して、その中間ブランドがほとんどなくなってしまいました。技術者には狭き門です。20年前はまだその中間に位置するセミハイファッションブランドというか、そういうブランドを求める顧客もブランドも結構ありました。腕のあるパタンナーが活躍できるカルチャーのある企業が少なからずありました。しかしこの20年でほとんどのブランドが姿を消すか、価格重視に方針転換しました。

そう考えると自分たちはついているなと思います。技術を生かせる仕事を続けられているからです。
でもアパレルが強い時代は働く者には大変な時代でした。朝から深夜まで当たり前のようにみんな働いていました。ブラック企業どころかブラック社会でした。どの業界も。あの頃に戻りたくはありません。しかし恐らく仕事の質、量ともにあの時代だから鍛えられたのだと思います。
でもここ20年ほどの若いパタンナーは、望んだとしてもブラック企業も、仕事の質や量も得る事は出来ないと思います。望む人もいないと思います。

私たちがこの仕事をネットで始めた時には同業他社は皆無でしたが、今では同じようなサイトがたくさんあると思います。私たちは全く他のサイトを見ていませんのでどんなサイトがどれくらいあるのか知りませんが、お客さまのメールを通して情報を得る事はあります。中にはかなり具体的に〇〇さんのはこうだったとコメントされている事もあります。どこまで本当か分かりませんが、そんな内容なんだとびっくりすることもあります。

そうした時には、あんな思いまでして働いた甲斐があった、まだ技術が生かされているんだと感謝したい気持ちになります。今の若いパタンナーでは求めても得られない経験だからです。
まあ自ら望んだわけではなかったんですけどね。

2020.9.17
本当に既製服を上回れるのか

Mパターン研究所は、「パターンが良ければ既製服より素晴らしい服が作れる」と提案しています。

既製服を作っている人はそれを生業としている人たちです。当然ある程度の縫製技術を持っています。そんな人たちが作っている既製服に、パターンが良いというだけで、初心者が作った服が太刀打ちできるのか。ただ単なる理想を言っているだけなのか。

出来ます。

世の中で最も素晴らしい服はオートクチュールです。その人だけの為にトワルを組み、パターンを作り、腕利きの特別な職人が縫製します。これはどうあがいても勝ち目はありません。時間の制約もなく、あらゆる手間を惜しみません。
でも既製服は出来るだけコストを掛けずに、手間をかけずに産み出された産業物です。携わるすべての人がコストと時間と闘い、ある時は仕上がりよりそれらを優先します。あらゆる妥協の産物とも言えます。
当然パターンも次から次へとこなさなければいけませんから、こだわっていられません。コストが合わなくなります。間に合わなくなります。

技術のない初心者の皆さんが出来る事。それは手間を惜しまない事です。それさえおざなりにしなければ、既製服に勝てます。既製服には出来ない丁寧さで作り上げれば。技術がないなら、間違っても無理に急いで雑な仕事にならないように。

Mパターン研究所は、オートクチュールの技術なしに、いかに「パターンのテクニックのみでそれを上回る」事が出来るかを考えて20年以上仕事をしてきました。それは大変な作業です。アパレル時代より何倍もの神経を使います。
「パターンのみで、誰が作っても素晴らしい服が作れる」もちろんそれは未だ道半ばです。

でも皆さんには、それだけは信頼して手間をかけて作って欲しいと思っています。

2020.9.10
トワル

前回の「グレーディング」の話の補足になります。

プロトパターンが最も完成度が高いというのは、トワルを組んでいるからです。ボディーをベースにトワルを組み(場合によっては何度も)、フィッティングモデルなどに試着させ何度も修正し完成させているからです。全てのフルスペックの作業を立体で手で行っているからです。
本当に完璧を目指すなら、他の14サイズもすべてトワルを組んでフィッティングモデルなどに試着させ、トワルを組み直すべきなのですが、はさすがにMパターン研究所でも全サイズトワルを組んだりはしていません。「グレーディング」であるここからの作業は、経験と勘と考え方と技術による平面の作業となります。パターンメイキングとはある種別の技術ともいえますね。

話を戻しますが、パターンメイキングと一言で言っても、どのボディを選ぶか、ボディをどのようにしてカスタマイズしているか、メイキングの上でボディをどのように利用しているか、トワルを組んでいるか、どのようなトワルか、どのような考えでトワルを修正しているのか、どんなフィッテイングモデルか、どのようにして平面に落とし込んでいるのか、などたくさんの方法があります。
人間の身体でも、首の付き方、肩傾斜、身体の厚み、背中の盛り上がり方、胸の形状などをどこまで考慮するのか。身体はどういう風に動くのか、という人間の行動力学にも関わってきます。考えればきりがない作業です。
でもパターンは市販のボディのまま何も考えずに簡単に作れたりもします。
同じデザインでもパターンはかなり変わってくると思いませんか。

ベテランのパタンナーになると平面でもかなり細部までイメージが想像でき精度の高いパターンが引けると思います。若いパタンナーでは全く想像が付かないでしょうが。それでも私たちはトワルは組みます。立体にしながら修正します。トワルが人間の肉体だと思うからです。

2020.9.3
グレーディング

一般の方は知らないアパレルの専門用語に「グレーディング」があります。今では色々な業界でそれぞれの意味で使われているようですが、アパレルの「グレーディング」とは簡単に言うとプロトパターン(原型)を拡大、縮小してサイズ展開をすることです。

実はこの「グレーディング」という作業は大変難しく、プロのパタンナーでも、パターンはひけるけれどグレーディングは出来ないパタンナーは結構います。昔からアパレル業界向けにパターンを請け負う「外注パターン」の会社は多く、近年は安くパターンを受ける個人パタンナーも増え、社内では全くパターンをひかないアパレルもあります。
自社でパターンをひく会社でも「グレーディング」は専門の会社に発注するアパレルは多く、パターン会社でも「グレーディング」のみの仕事依頼は多く、「グレーディング」専門の会社もあります。グレーディングをする人は「グレーダー」とも呼ばれ、パターンナーの中でも特に技術力のある人が多いです。
でもグレーディングだけ別の人に任せてしまうと、プロトパターンとの関係性に齟齬が生まれます。

素人の人は、拡大縮小でしょ、それコンピューターでも出来るんじゃ?と思われるかもしれませんが、そんなに単純なものではありません。パターンというのは拡大縮小した時に、元のパターンとの関連性を保ちながら、そのサイズとしてのバランスや美しさが成立していないといけません。簡単な拡大縮小ではないのです。
ただS、M、Lの3サイズ展開程度のアパレルは単純化させてしまっているかもしれません。Mを着た感じとLを着た感じがかなり違うという事も経験あります。

パターンは、極端に言うとSとMとLではそれぞれ違うサイズ感で、その体型の方が着た時に美しいというのが理想です。もちろんデザインは一緒ですし、基本のプロトパターン制作時のパタンナーの意図が十分反映されている必要はあった上です。つまり同じデザインでありながら、SはSとして独立したうつくしいパターンでなければならないのです。まるでSもLもグレーディングではなく、それ自体がプロトパターンのように。

Mパターン研究所のパターンは、どのサイズも、動きやすいのに細身に見える事をテーマにしています。大きめのサイズと小さいサイズでは細く見えるポイントが違います。ある部分は拡大縮小した上で、そのパターンとしてのパターン修正も行います。
つまり、グレーディングをした後でまたパターンメイキングの作業を行っています。各パターンがプロトパターンであるように。それを15サイズ繰り返しています。ですので新作には時間が掛かります。

手前味噌になりますが、15サイズというグレーディングが出来るパタンナーは少ないと思います。ものすごく神経を使う面倒くさい作業です。確認チェックを入れると大変な労力が必要です。

本当の意味での「グレーディング」はパタンナーの技術力が最も必要な作業と言えます。

2020.7.22
パターンの修正の難しさ

パターンに関わる微調整のご質問を頂く事が結構ありますが、本当に申し訳ありませんが的確なお答えは出来ません。不親切に思われるかもしれませんが、それほどパターンは奥が深く難しい作業だということはご理解頂きたいと思います。
追い求める完成度がどの程度なのかにもよりますが、一般の方がそれで出来てしまうのなら私たちのパターンは必要ないのではないかとも思います。恐らくこうすればいけますよ、と言ってくれるサイトもあるかと思いますし、ある程度は数字の計算式でも出せるかもしれませんので、やってみる事は出来るかもしれません。

ただ、服の構造は作った人が一番知っているはずですが、他の人がそのパターンも見ないで(見ても)構造を理解し、正確に修正できるとは思えません。私たちでも他の人のパターンは理解できないと思います。しかも服だけではなく、着る人の体型にも関わっているかもしれないのです。

パターンは経験と勘、考え方が反映されているもので、それは数値では表現できないものです。既製服自体も、とても好きな服もありますが、何でこのような服を作ったんだろう、着ているんだろうと思わずにいられない服(失礼!)もたくさんあります。個性的なデザインの服を一般論で修正は出来ないと思っています。
アパレルがパタンナーを採用する場合、経験、腕だけで採用はしません。仕事をしてきたブランド、作ってきた洋服がどういうものかが重要です。それでその人の服の雰囲気が決まりますから。

洋服は着た時のうつくしさと動きやすさなどの機能性のバランスを考えて作ります。デザインが同じでも考え方が違えば違う服になります。一般論で「ワンピースの場合」とはならないと思っています。

パタンナーはトワルを組んで立体で考えて、経験をもとに何度も作り直して修正を繰り返しますが、一般の方はトワルは組まないでしょうから紙の平面だけで処理する事は不可能に近いと思います。簡単、単純なパターンはある程度可能かもしれませんが、言い方が難しいですが、完成度の高い繊細な服ほどそれは容易ではない事にどうかご理解頂けたらと思います。

2020.1.22
おしゃれな人は自分の事を知っている

自分に合う洋服を選ぶためには、日頃から自分の事を良く知っておく事は重要です。

先日のお話の続きにもなりますが、欲しい服の話が抽象的なイメージの話になってしまう人は、自分自身の事を良く分かっていない人が多いです。「何となくこんな感じ」という話になりがちなのです。

自分の体型を採寸するという作業も自分を知っておく方法ですが、自分の理想の服の基本の寸法は頭に入れておくべきです。
例えば、簡単なアイテムで言うとTシャツならば身幅(BL)は〇〇cm、裾幅は〇〇cm、丈は〇〇cmとか。もちろんダボっと着るビッグTみたいなアイテムもありますが、基本的なTシャツとしてはこの寸法という基準を持ちましょう。そうすれば判断しやすいです。ビッグTのような例外的なタイプは着てみないと分かりませんのでネット通販はお薦めしませんが、基本的なTシャツならネットでも購入できます。

私も基本的にはこれでないと絶対に買わないという寸法があります。全てのアイテムにあります。大きめに着こなすような例外的なデザイン物は別として、基本は常に頭に入っています。身幅が大き過ぎても小さ過ぎても、丈が長すぎても短すぎても嫌だからです。
基本のサイズでは、それより大きいものを着たらどうなるか、どう見えるか、もう自分で分かってしまっているからです。

新しい洋服を前にした段階で、既に自分のスタンダードは決まっているくらいの状態が望ましいです。その基準値を新しい服に合わせてみる感じです。ある基準までは、「どうなるか」は自分が一番知っている事が大事です。

服を買っては捨て買っては捨てを繰り返すのは、自分を知っていない、自分のスタンダードな基準を持っていないからだと思います。ですので自分の事まで他人に質問してしまうのだと思います。

服の事は作った人が一番知っていますが、自分の事は自分が一番知っているはずなのですから。