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2024.9.15
落下の解剖学

昨年のカンヌ映画祭コンペティション部門でパルムドールを受賞し、今年のアカデミー賞では作品賞など5部門にノミネートされ、脚本賞を受賞した作品。カンヌではパルムドッグ賞を受賞したボーダーコリー犬の演技も話題だ。

⼈⾥離れた雪⼭の⼭荘で男が転落死する。単純な転落事故と思われたが不審な点も多く、次第にベストセラー作家である妻に殺⼈容疑が向けられる。血を流して倒れていたのを発見したのは、同居する視覚障がいのある11歳の息⼦だけ。関係者が真相を追っていく中で、夫婦の秘密や嘘が暴露され、登場⼈物の数だけ〈真実〉が現れる。

息子に対して必死に自らの無罪を主張する母だったが、事件の真相が明らかになっていくなかで、仲むつまじいと思われていた家族像とは裏腹の、夫婦のあいだに隠された秘密や嘘が露わになっていく。人気作家としての知的な表の顔に隠された、冷酷で自我を抑えられない裏の顔が露わになるにつれ、観るものは混乱の渦へと引きずり込まれる。
本当に可哀そうな息子のダニエル役のミロ・マシャド・グラネールの、演技を超越した存在感が物語のカギを握る。

結末に関しては納得できない方もいるかもしれないが、分かりえる真実は全て表に出ている。これ以上の真実は無い。となると、納得できない人は何に納得が出来ないのか?という事になる。自分の期待通りの結論だと納得できたのか。自分の期待通りとは、他の人にとっても期待通りなのか。自分の勝手な脚本ではないのか。

「落下の解剖学」とは、落下した人間の検死解剖ではなく、観客は登場人物とともに人間心理の深みに落ちていくという「落下」、あらゆる価値観が覆され、観る人自身の解釈で真実の「解剖」を委ねる、という意味だろう。