たま〜に映画 音楽情報


2019.8.1
今だからこそ全ての日本人に見て欲しい映画

本当に素晴らしい映画です。私は今だからこそ、全ての日本人に見て欲しいと思います。

ストーリーは、ブエノスアイレスに住む88歳のユダヤ人の仕立て職人が、戦争時に匿ってくれたポーランドに住む命の恩人である友人に、彼の為に仕立てたスーツを届ける為70年ぶりに会いに行くという旅の記録。旅はマドリッドやパリを経由して行くが、ドイツは絶対に通過すらしたくない、という徹底ぶり。途中で様々なトラブルに見舞われるが、出会う人々のやさしさに触れ、頑なだった彼の心が少しずつ開かれていく。

戦争は今も終わっていない。戦争で受けた迫害は想像を絶するものだったと思う。ここまで頑にこころを閉ざしてしまった主人公を、誰が責める事が出来るだろうか。きっと恩人にはすぐにでも会いたかったのだと思うが、結局70年もかかってしまった程、足を踏み入れたくなかった場所だったのだと思った。戦争は自分はもちろん、娘たちにも暗い影を落としている。

そして何といっても老人のこころを変えてしまったドイツ人女性の素晴らしいこと。戦争を自らの罪として背負う覚悟。自分は戦争とは何の関係も無いのに。確かに戦後の歴史でドイツは国の大罪と正面から向き合ってきている。

はたして私たち日本人が、戦争の被害国への罪の意識を心の底から持っているのか。自ら先祖の罪を背負っているのか。この主人公と同じ立場になったらどう思うか。考えさせられる映画です。

戦争がテーマの映画というとちょっと構えてしまう方も多いと思いますが、この映画は面白く見れながら、考えさせてくれ、最後は間違いなく感動出来ます。

もう一度声を大にして言います。戦争は終わっていない。簡単には終わらない。今だからこそ是非、全国民に見て欲しいです。

2019.7.3
前田敦子の主人公は今の日本人そのもの

週に2-3本はDVDで映画を見ていますが、すっかり映画館からは遠ざかってしまいました。今では映画館に行くのは年に2-3回程度。自分が見たい映画は特に小さい映画館が多いので、ちょっと周りの緊張感がつらい時もあります。他の人の笑い声やすすり泣きはホッとする瞬間でもあるのですが。

そんなわけで今年2回目の映画館鑑賞しました。大好きな黒沢清監督の新作「旅のおわり 世界のはじまり」です。
既に上映されて2週間ほど経っていますが全く予備知識なしで行ったら、何と黒沢清監督ご本人がいらしていて上映後トークショー&サイン会のサプライズまであり、黒沢清ファンとしてはとてもうれしかったです。ほとんどの方は既にご存知だったようでした。直前のツイッターで知ったようで改めてSNS強しと思いました。

見てから知ったのですが、この作品はウズベキスタンと日本の友好を記念して日本の文化庁からもウズベキスタンからもお金が出ていて、朝日新聞も協力していて、テアトル東京が制作し全編ウズベキスタンロケという結構大掛かりなプロジェクトのようでした。
いつもの通り不思議な世界観ですが、今までの黒沢作品とは一味違い、見やすく明るいイメージの方の映画だと思います。主演は前田敦子。2時間に渡って主人公である前田敦子を撮り続けていて、日本人の常識からするとえっと思う事も多いのですが、自分の気持ちに正直に生きるという事と、人に対しても優しく正直に接するという当たり前の事がいかに難しい事かを主人公を通して見る者に感じさせてくれる映画です。
乾いたウズベキスタンの風景の中で主人公の心のゆらぎが描かれ、その心象風景のように移ろいゆく映像表現になっています。舞台で前田敦子の独唱が見どころでもあります。主人公の気持ちを歌で表現したシーンが初めから監督の構想にあったようです。

映画館へあまり行かなくなった私が言うのもなんですが、たまには映画館も良いですよ。

2019.6.26
億男

「世界から猫が消えたなら」の原作、「デトロイトメタルシティ」「告白」「悪人」「怒り」そして「君の名は。」の企画、プロデュースなど。私が見た中だけでも、どれも圧倒的に面白かったです。「億男」は、今の日本映画に明らかな存在感を放っている川村元気の原作です。

関わる作品がどれもほぼヒットしているという羨ましくらいの才能に恵まれた方ですが、この作品はその中ではそれほど話題にならなかった気がします。あくまで原作ということで映画の制作には関わっていらっしゃらないのだと思いますので、映画自体の出来栄えにはこの方は関係なく、私は原作は読んでいないので映画を通しての感想になりますが、やはり才能があるんだな~と感じました。

私は自分をマイノリティと自認していて、ヒットと自分の好みがあまり一致しない事が多いです。大ヒットという作品はそれほど私には響かない事も多く、自分は素晴らしいと思うのに世の中的には全く受けていない事はさらにたくさんあります。

しかし、この人の関わる作品の多くはヒットしながらも私も良いと思えるものばかりです。私の感覚が世間とずれているのかもしれませんが、広くたくさんの人から支持をもらうことの難しさをいとも簡単にクリアしている川村さんは素晴らしいと思わざるを得ません。

「億男」は、人間にとってお金とは?というテーマをストレートに表現している作品です。今の多くの小説や映画など、お金や貧困、人間のあり方などのテーマと少なからず関わりあいがあるものが多いと思います。この映画では少しコミカルに、エンターテイメントとして、このテーマに向き合っていると思います。あくまで娯楽性を持ちながら、大事なテーマを含んでいるのが川村作品の特徴かと思います。そういう意味では松本清張の面白さに近い気がします。

2019.6.5
折坂悠太 「坂道」

「たま~に映画 音楽情報」と言いながら、初めての音楽情報です。ちょっと映画が面白くなって見まくっていましたが、この人の「坂道」という曲に久々に完全にノックアウトされました。毎日50回以上聴いています。

初めて聴いた時はオリジナルラブの田島貴男かと思いましたが、声がちょっと違うし、もう少し爽やかな印象でした。
曲の雰囲気が良いです。詩が良いです。悲しみも、切なさも、毒も、希望もあります。とても奥深く、味わい深い歌だな~って思います。幼少期をロシアやイランで過ごしたとの事で、いろいろな感性がミックスされた無国籍さを感じます。

つい最近この曲を聴いてからはまってしまったので、まだ詳しくは知らないし、昔の曲はまだ聴いていないので、これからじっくりと聴いていこうと思っています。

2019.5.30
脚本、演出、演技の全てで傑出した作品

言わずと知れた是枝監督のカンヌ映画祭最高賞のパルムドール受賞作です。
是枝作品の分かりやすさは、映画ではなくテレビ番組製作出身という所から分かります。山田太一、向田邦子、倉本總などの、娯楽性とメッセージ性を合わせ持つ作品を目標としていたのでしょう。

最近の作品は全て見ていますが、個人的には「海よりもまだ深く」が一番好きです。 万引き家族はこれぞ是枝作品!という感じで、今までの作品の要素を全て合わせ持っている感じです。リリーフランキーは「そして父になる」のようですし、子どもたちの境遇は「誰も知らない」を感じさせますし、大人の女性たちは「海街diary」を思い出させてくれます。
先日ご紹介した西川美和監督と方向性がとても似ている気がしますが、西川さんが若い女性の感性だとすると、是枝さんはおじさんの視点のように感じます。やさしさがあります。

この作品は少しメッセージ性が勝っている気がしますが、何より役者さんの存在感が素晴らしい作品だと思います。リリーフランキーはこうした役はピッタリですし、樹木希林の少しいい加減な感じ、子役も松岡茉優も素晴らしいですが、なんと言っても安藤サクラの演技が素晴らしいと思いました。そういう意味でこの作品は、脚本も演出もすごいのですが役者がそれを上回っている秀逸な1品だと思いました。
じつは「そして父になる」と「誰も知らない」の間の作品は見ていないので、これから見ようと思います。

2019.5.20
技術と表現力で支える裏方たち

不思議で変なものが大好きなんですが、この映画はすがすがしく爽やかで美しい映画です。クリエイティブなイメージの世界を表現していますが、分かりやすい映画だと思いますので幅広く共感を得られる作品と言えます。

ピアノの音を調節する調律師の映画です。本屋大賞を受賞した小説の映画化ということですが、小説を読んでいないので何とも言えないのですが、音楽が背景にあるので音が入ってくる「映画」ではとても美しい世界観が表現できたのかと思います。逆に文字だけの「小説」でこの世界を表現出来たのだとすると、すごい小説だったんだなと感心しました。

見ていて思ったのは、調律師はパタンナーに似ているという事です。
「言葉で表現できない部分を音で表現する」
パタンナーは音ではなく立体の「かたち」で表現します。
アマチュアの顧客が調律師にあそこまでイメージ的な調整をお願いするのか、ちょっと疑問ですが、プロのデザイナーのイメージ表現を上回る「かたち」にするのがプロのパタンナーの仕事です。一般の人が望むものを「かたち」にするのも

調律師もパタンナーも裏方の仕事だと思いますが、その人の技術と表現力が演奏家やデザイナーを支えている。そしてきっといろいろな分野で同じ様な仕事をしている人たちがいるのだと思います。