たま〜に映画 音楽情報


2019.5.20
技術と表現力で支える裏方たち

不思議で変なものが大好きなんですが、この映画はすがすがしく爽やかで美しい映画です。クリエイティブなイメージの世界を表現していますが、分かりやすい映画だと思いますので幅広く共感を得られる作品と言えます。

ピアノの音を調節する調律師の映画です。本屋大賞を受賞した小説の映画化ということですが、小説を読んでいないので何とも言えないのですが、音楽が背景にあるので音が入ってくる「映画」ではとても美しい世界観が表現できたのかと思います。逆に文字だけの「小説」でこの世界を表現出来たのだとすると、すごい小説だったんだなと感心しました。

見ていて思ったのは、調律師はパタンナーに似ているという事です。
「言葉で表現できない部分を音で表現する」
パタンナーは音ではなく立体の「かたち」で表現します。
アマチュアの顧客が調律師にあそこまでイメージ的な調整をお願いするのか、ちょっと疑問ですが、プロのデザイナーのイメージ表現を上回る「かたち」にするのがプロのパタンナーの仕事です。一般の人が望むものを「かたち」にするのも

調律師もパタンナーも裏方の仕事だと思いますが、その人の技術と表現力が演奏家やデザイナーを支えている。そしてきっといろいろな分野で同じ様な仕事をしている人たちがいるのだと思います。

2019.3.26
これまでの映画の概念を覆された作品

近年はそれほど映画を観ていなかった私が、狂ったように映画を観るようになったのが約1年前からなのですが、映画熱が嵩じてこのようなコラムまで作ってしゃべる事にまでなった、そのきっかけとなった日本人の映画監督がいます。本当はその作品を最初にご紹介するべきというか、したかったのですが、あまりにもマニアック(と人に言われます)な作品なので、少しこのコラムが落ち着いた段階でご紹介しようと思っていて、ついに満を持して今日ご紹介致します。

その人は黒沢清監督です。黒沢明とは何の関係もありません。日本よりもフランスでは有名な監督で、カンヌ映画祭では「ある視点」部門で、作品賞、審査員賞、国際批評家連盟賞と3回の受賞歴があります。この人しか表現できない独特な世界観を持った監督で、ホラー映画の監督とジャンル分けされたりしていますが、(確かにホラーもありますが)私はホラー映画と思っていません。

実は初めて見た黒沢監督の作品の印象はひどく悪くて(私はホラー寄りの作品が好きではないです)、映画通の友人に話すと「きっと気に入るのもあるから他のも見た方が良いよ」と言われ他の作品を見始めたのがきっかけなので、紙一重というか、友人に話さなければもう観なかったかもしれないと思うと不思議な感じがします。それくらい最初に見た作品は好みではないです。

私がここまで黒沢清にはまるきっかけになったのは「cure(キュア)」「カリスマ」「アカルイミライ」「ドッペルゲンガー」という作品なのですが、こちらは相当マニアックなのでお薦め出来ません(特に最初は)が、皆さんにお薦めするとしたら「トウキョウソナタ」(小泉今日子、香川照之主演)「散歩する侵略者」(長澤まさみ、松田龍平主演)「岸辺の旅」(深津絵里、浅野忠信主演)の3作品です。ちなみに「トウキョウソナタ」と「岸辺の旅」がカンヌで受賞した作品です。
この3作品の方が分かりやすいというか、娯楽映画として洗練されていて観やすいと思います。それでもかなり不思議な作品だと思います。

人の数だけ感性はあるので、みなさんがどう感じられるかは分かりませんが、私個人としては映画の概念を覆させられた映画監督です。この方の作品は話し出すときりが無いので、何はともあれ、騙されたと思って是非ご覧になって下さい。

2019.3.11
多義的な人ほど豊かな人では

アカデミー賞はグリーンブックでしたね。メッセージ性とエンターテイメント性のバランスを取った結果でしょうか。今のアカデミー賞の立ち位置の難しさを感じます。

最近見た中では「カメラを止めるな」や「焼肉ドラゴン」という映画も面白かったですね。
そして「永い言い訳」。西川美和監督の2016年の作品です。本木雅弘、竹原ピストル。事故で妻を亡くした男同士。どちらがどうという事ではなく、ダメな男2人。もがき方が魅力的です。現実もこの様に、人の心は虚しさと希望とが生々しく交錯しているのではないでしょうか。
人間は、かくも多義的な生き物だと思わされました。もっくんの「売れっ子小説家」という、ちょっといやらしい設定など「そして父になる」に似ている感じもありますが、こちらの方が女性監督だからか、とても繊細な感情表現がうつくしいです。編集者など脇役の方も含めて、とても対照的な人間が登場しますが、どの人にも自分の中にある部分を感じてしまいます。どの人が素晴らしくてどの人がダメというのではなく、みんな人間の強さと弱さを持ち合わせているのです。

西川美和さんの作品は、まだたくさんは見ていないのですが、いろいろ見てみようと思いました。

2019.2.14
聖なる鹿殺し

もうすぐですね、24日になりました今年のアカデミー賞。皆さんは興味ありますか?ほとんどの作品が日本ではまだ上映されていませんので、予想も何も全く分かりませんが。
ネット情報ですが、今年の本命は「ローマ」というメキシコ人監督による衝撃的な作品のようです。ちょっと聞いただけではアカデミー賞の予想に上がるような映画ではないような気もしますが、最近のアカデミー賞はカンヌ映画祭のように娯楽性から芸術性も意識しているのでしょうか。

対抗が、アメリカ人が大好きなアメコミの実写版「ブラック・パンサー」、そして穴として候補に挙がっているのが「女王陛下のお気に入り」という作品です。この作品の監督がギリシャ人のヨゴラス・ランティモス。今私がかなりはまっている監督さんです。
新作の「女王陛下の.....」はアカデミー効果か、最近主要テレビ局でもCMがオンエアされていてビックリしています。カンヌ映画祭では常連な監督なのですがまさかアカデミー賞候補とは。あくまでこの作品を見ていないので何とも言えませんが、アカデミー賞という対象とは無縁な監督だと思っていたので。

そのヨゴラス・ランティモス監督の前作「聖なる鹿殺し」は本当に素晴らしかったです。映画的なメタファーの要素が多いので分かりにくいと思われる方も多いのですが、見た人に意味を考えさせる作品ではあります。主人公の男性医師、奥様役の二コール・キッドマン、そしてその子どもたち。全ての登場人物の行動があり得ません。誰もが絶対に選ばない選択をします。一人の少年が全ての人を混乱に巻き込みます。「権威」と「服従」、人間心理の概念に迫る強烈な作品だと思いました。

この作品だったら間違いなくアカデミー賞は無理でしょうが(笑)もし「女王陛下の...」がアカデミー賞を取ったら私としては喝采です。なぜって「聖なる鹿殺し」はアメリカ社会を痛烈に風刺している映画でもあると思っていますので。
あくまで作品はちがいますが。

2019.1.29
愛することは支配すること 本当に美の奴隷になった名優

ツタヤの宅配レンタルの会員になりました。映画を狂ったように見ています。月\2,000くらいで新作も見れて見放題です。返送と配送があるので実際には12~14作くらいでしょうか。お薦めです。

「ファントム・スレッド」は英国のオートクチュールの世界を描いた大人の恋愛映画です。ただの恋愛映画ではありませんが。
王室の顧客も持つオートクチュールのデザイナーとカフェのウエイトレスだった女性の物語です。オートクチュールのメゾンの作業風景がふんだんに映されますので、ファッション業界に興味のある方はとても楽しいと思います。アカデミー賞の衣装デザイン賞を受賞した作品です。オートクチュールではありませんが、私は昔のコレクションの時の作業風景を思い出し、懐かしい思いもこみ上げてきました。こちらは潔癖すぎる仕立て場ですが。

監督はポール・トーマス・アンダーソン。素晴らしい作品を作る監督です。そして主演のファッションデザイナーを演じるのはオスカー俳優ダニエル・デイ・ルイス。カッコイイです。1年間本物のメゾンでデザインや仕立ての勉強をしたほどの入れ込みよう。何とこの作品を最後に引退してしまいました。この作品を演じて「悲しみに襲われたから」が引退の理由だそうです。名優を引退にまで追いやるほどの作品、興味ありますよね。

ミューズとして迎えたアルマという女性に、皇帝のような完璧な男がやがて全てを狂わされます。愛することは支配することなのか。完璧な仕事をする者の現実の苦悩も身につまされます。
私がお薦めするので単純な恋愛映画ではないですが面白いですよ。

2018.11.28
美と醜 虚構と実像 アートを散りばめた心の風景画

監督はあのトム・フォード。グッチやイブ・サンローランのファッションデザイナーを歴任した人です。ファッション業界でその名を馳せたトップデザイナーのセンスが、映画にどう反映されるのか。そしてジェイク・ギレンホールも出ているという事で否が応でも期待してしまう作品でした。
内容は、アートがふんだんに取り入れられた複雑なミステリーでした。時間軸がちょくちょく変わるので難解に感じますが、面白かったです。まず冒頭の太った裸の女性(失礼!他に表現がありません)のインパクト!少し嫌味なほどにアート作品が登場します。そしてテキサスの荒野。主人公たちのファッションと、時代に取り残されたかのような警官のカウボーイスタイル。徹底的な美と醜。虚構と実像。これも心象風景なのでしょうか。いちいち、何を意味しているのか?不思議な思いに駆られます。

やはり見る者に考えさせる映画です。最後は分かりません。いろいろ想像はできます。暴力的なシーンがあり、ストーリーというより内省的な心の風景画という感じ。意見は分かれるでしょうが、監督トム・フォードもなかなかの才能だと思います。
ただ、どうなんでしょう、トム・フォードはアートや現実世界のセレブを皮肉っているのでしょうか?どういう気持ちでファッションの仕事をしているのか?気になります。