たま〜に映画 音楽情報


2021.4.23
「いつくしみふかき」

私の中では懐かしの朝ドラ「ひらり」の俳優さんである、渡辺いっけいが初主演という映画「いつくしみふかき」。大山晃一郎監督の作品は初めてでしたが、監督自身が「見る方に負荷になる様な、分かりにくい作品」と言うように、恐らく賛否あるかと思います。国内外の色々な映画賞を取っているのに惹かれて見ました。感想は、私は素晴らしいと思いました。何度か見たいと思ったほどです。

コメディー風でもあり、ホラータッチもあり、バイオレンスあり、サスペンスを感じるエンターテイメントな仕上がりのヒューマンドラマ、日本では珍しい娯楽映画です。私としては「パラサイト」の娯楽性に少し近い気がして、日本でもめずらしい才能の監督が現れたと今後に期待が持てると思いました。カメラワークも独特で、作り手の才能を感じます。
ちょっと暴力シーンがきつめなので、そこだけ気になりましたが、最後まで見終われば生きることの儚さで胸に迫るものがある映画です。

村人から「悪魔」と呼ばれる、どうしようもない父親を持ったがゆえに引きこもったまま30歳にもなる息子と父親の物語。息子を甘やかしながらも寄り添おうとしない母親や、息子までも「悪魔の子」と責め続ける叔父と暮らすという環境も、息子を誰も信じられない過酷な精神状態に追い込みます。お互いに何となく接点を持った教会の「牧師」の縁で、お互い知らない状態で父と息子の関係が始まっていきます。
特にこの「牧師」が不思議な存在でちょっと訳が分からない展開に違和感を感じる人も多いと思いますが、人間の関わりというか、感情表現はリアルに感じました。

人間は必ずしもはっきりとした目的を持って生きているわけでもなく、はっきりとした出来事で生き方を変えるわけでもなく、色々な事が積み重なって突然目の前が開ける瞬間があるんだと思います。
父親は口から出まかせで息子に近づき、息子も気を許すまいと身構えながら父親を気にする。誰も信じられない二人の人間でも、ささやかでも信じたいと思う心もある。全てが熱い思いや愛情から始まる訳ではない。でも少しずつ何となく関わってゆく関係からも始まる愛もある。いやそんなものだと思えるリアルさがあります。

誰でも、あんな事を言ってしまって気にしていたけれど結局そのままになってしまったとか、親子でも、誤解を抱えたまま、亡くなってしまってから後悔するとか、関係を改善できずに終わってしまった人間関係って多いんじゃないんでしょうか。人の事だとじれったいとか中途半端とか言えるけれど、自分も宙ぶらりんにしてある心のトゲをみんな持っているんじゃないかと思います。

ちょっとネタバレになっちゃうけれど、救いのない現実から、最後は前向きになれる映画です。