作られ方のうつくしいもの


2018.6.20
アートとPOP 柔と剛 若い作家は2つの面を合わせ持つ ~冨沢恭子~

柿渋染めかばん

まるで太古の時代の土器や青銅器や鉄器のような力強い造形美を、あるいは日本の侘び寂びのような抑制された繊細で儚い美しさを感じる柿渋染めのかばん。時代を経てきたものが持つような佇まいを、今の時代で表現、制作されている方がいる。しかも聞くとその作家は若い女性だと言う。私の偏見かもしれませんが、作品の持つ味わい、渋み、力強さから、若い女性とは想像できませんでした。一体どんな方なんだろうという個人的な興味を含めて、アトリエでお話を聞く機会を頂きました。

柿渋染め作家の冨沢恭子さんは、武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科在学中から古来の染料柿渋に惹かれ、3年時から本格的にのめり込み、大学院まで布や和紙を柿渋染めにして作品を作り続けられたそうです。
柿渋の染料は、タンニンを多量に含む渋柿の実から得られた液を発酵・熟成させて得られる染液で、染め重ねを繰り返す事により防腐性、耐水性が出る為、古くは平安時代より水周りのものに用いられてきた日本固有の染料です。「染めていくごとに質感が変わり、太陽を浴びて色が濃くなり強くたくましくなるのが魅力」と冨沢さん。天然染料は繊細な色合いが特徴で、堅牢度は弱く光にも弱い為、色はだんだん褪せてくるのが一般的ですが、お話を聞いて確かに柿渋は特別な染料だと思いました。

酒袋

冨沢さんが柿渋染めに魅了される原点となったのは、日本の酒蔵にある「酒袋(さかぶくろ)」でした。酒袋とは酒蔵で「もろみ」を入れて酒を絞るのに用いられた袋。袋の中に残るのが酒粕です。現在は機械化によってあまり使われなくなってきているそうです。
そんな貴重な古い酒袋を冨沢さんに見せて頂きました。平織りの厚手の布であるハンプを柿渋で補強して作る酒袋は使い続けるほどに味わいが出ます。傷んでは繕われてきた跡からは、杜氏が大切に使用してきた思いが伝わってきます。酒蔵によって色々な形のものがあり、生地も色ムラも出方が違います。冨沢さんが受けたであろう衝撃には及ばないかもしれませんが、私もかなりの衝撃を受けました。柿渋染めに魅了された気持ちが納得できました。

また大学時代に韓国で見た、僧侶が身に纏っていた僧衣も富沢さんの心を捉えます。墨染めに染まった僧衣の素材の表情や風合い、強さ。柿渋の色合いと僧衣の素材という2つのものが頭の中で結びついて、富沢さんのかばんの素材となります。

海外の雑貨

冨沢さんは柿渋染めの作家として以外に、武蔵野美術大学時代の同級生3人と「sunui(スヌイ)」という活動もされています。アトリエはsunuiのメンバーと共同で、学生時代の延長のように見えて何やら楽しそうです。sunuiでは、旅をして見つけた身近な素材をつなぎ合わせバッチやバッグなどのアクセサリーを制作しています。本来の目的ではない別の使い方を考え、様々なクリエーションを施し再生させる。こちらは柿渋染めと違って、POPでカラフルな色使いのものが多いです。チームとして、4人の違う個性が集まることで思いがけないゴールにたどり着ける楽しさがある、と冨沢さん。

柿渋染めとsunui。ある意味対照的な活動を同時にされている冨沢さんですが、さらにお話を聞くうち、それは中学高校時代をメキシコで過ごされたという事で合点がいきました。重厚な古代遺跡のマヤ文明やアステカ文明と、ビビッドな原色でカラフルなイメージのメキシコの町並や雑貨。
そうしたメキシコのように2つの面が混在している。作家冨沢恭子さんは、その背骨に芸術家の鋼を通していましたが、親しみやすく柔軟で、強さと繊細さを合わせ持った素敵な女性でした。

「冨沢恭子の柿渋染めかばんとsunuiのカンカンバッチ」
2018/7/4(水)~7/10(火)
松屋銀座7階 デザインギャラリーイベントスペース
クリエーターズショウケース2018

「用の図と地」Ⅵ 熊谷幸治|冨沢恭子|渡辺遼 三人展
2018/7/28(土)~8/13(月)11:00~19:00 
7/31、8/7休み
吉祥寺OUTBOUND

皆さんも是非一度、冨沢さんの作品をご覧下さい。

2018.5.18
本当のクリエーターになった織職人 ~渡邊織物~

最初に渡辺さんに興味を持ったのは、東京青山のスパイラルホールであったイベントで見た1冊のカタログでした。まるでアートブックかアート写真集のような完成度の高さでありながら、何と機屋の後継者の方が写真からデザインまで全て手掛けられたというのです。これほどのカタログを制作する人とはどんな機屋さんなんだろう。私の頭の中の機屋さんのイメージを覆すインパクトでした。私が今までお会いした中では、機屋さんに限らず、ハードの側の人は常に優秀なクリエーター(ソフトの側の人)を探していましたから。

渡邊織物は約70年続く機屋で、2代目のお父さんの時にキュプラ100%先染め裏地に特化しました。渡辺竜康さんが家業に入られて18年目になります。現在ドビー織機9台が稼動しています。
織機はジャガード織機とドビー織機があります。一般的にドビー織機はストライプやチェックなどの比較的シンプルな柄などの生地を織り、ジャガード織機は複雑な柄を織る事が出来るとされています。ただ、今回取材をしてみて、職人のやり方使い方でいかようにも可能性は広がる気がしました。

初めてお会いした渡辺さんの印象は、アーティストでもあり機屋でもありました。自ら肩書きを「写真家 建築家 機屋」と名乗られる方でした。異なっていた私の中のイメージがぴったりくっついた瞬間でした。
渡辺さんは大学で建築を学び、在学中から働いていた設計事務所で卒業後も働かれた後、ご実家の織物工場に入られました。建築模型を撮る事をきっかけに独学で写真を学ばれたそうです。

家業に入られてから18年目になる渡辺さんですが、ほんの数年前に転機になる出来事がありました。編集長エレン・フライスの卓越した審美眼を通して、世界中のデザイナー、アーティスト、写真家による誌面で世界にインパクトを与え続けている、渡辺さんあこがれのフランスのモード誌「パープル」。そのパープルのエレン本人から突然撮影の依頼がきたというのです。WEBにアップしていた渡辺さんの写真が目に留まって連絡をしてきたそうです。山梨の人々を撮影して欲しいという依頼で、エレン・フライス氏とは日本に来た時にも会われたそうです。

この事は写真家としての自信にもなり、ある種の達成感を感じ大きな転機となったそうです。それは機屋としての仕事にも表れます。それまで父と同じキュプラ100%の裏地に特化していた仕事を、キュプラを縦糸に綿や麻、ウールなどを横糸に使ったりと、織りの組織にもこだわったオリジナルの織物を追求し始めます。受注した通りのものを納めるだけでなく、自ら企画して提案する。裏地だけでなく服地、製品まで展開を広げる。写真家、建築家、機屋とバラバラだった自分の中のものが繋がったのだと思います。

今では、渡辺さんの生地が目に留まったアパレルデザイナーから依頼も入り、デザイナーさんとも直接話をする機会も増えてきたそうです。今後は、縦糸にもウールを使ったりと幅を広げていきたいと話してくれました。
渡辺さんのスタートはまだ始まったばかりなのかもしれません。

富士急・富士山駅近くのハタオリマチ案内所で毎月第3土曜日に開催されるイベント「KIJIYA」では、渡辺さんのこだわりの生地が購入出来ます。
また、様々な機屋さんが一般客を迎えてくれる「オープンファクトリー」というイベントも同時開催されていますので、工場内のショップでも色々な製品も購入出来ます。
独特の世界観を持つ渡辺さんの生地を見に、是非遊びにいらして下さい。

5/19(土) 10:00-17:00
KIJIYA/ ハタオリマチ案内所
山梨県富士吉田市上吉田2-5-1
TEL 0555-22-2164

渡邊織物
〒403-0009
山梨県富士吉田市富士見5-7-18
TEL 0555-22-4240

2018.5.17
デザインにこだわる老舗は世界を目指す ~槙田商店~

伸び縮みする糸が織りなすジャガードの絞りが、アヴァンギャルドな雰囲気を醸し出しているスカートやサルエルパンツ。㈱槙田商店が販売するブランド「sibo」の服は、自分で2ヶ所だけ縫って、洗い、乾燥機にかけて初めて完成します。生地と織りめに熱をかけると縮むストレッチ糸を使用しているので、乾燥させた後に絞りのような立体的なデザインとなります。自分の手作業を加える事で、洋服として仕上がる。ちょっとした実験のようで面白いし、手作りの達成感がありますよね。

ソーイングされる皆さんなら何てことない作業ですが、一般の方には難しいらしい。「完成したものを売ってもらえませんか」とよく言われるそうです。それでも「お客さんが好みに合わせて自由にアレンジ出来るという事にこだわりがあるんです」と、槙田商店6代目になる槇田洋一さんは話されます。縫い方を工夫する事で、身体のサイズに合わせたり、スカートやパンツ、ボレロにもなる。作る人の想像力で色々なアイテムに変身する。生地屋さんが考えた素敵なアイデアだなとつくづく感心しました。

江戸時代から続く152年の歴史を持つ㈱槙田商店は、先染糸を高密度に織り上げる最新鋭の電子ジャガード織機12台を所有する機屋です。高速で180cm巾も織れる幅広織も備えているので複雑な風景のような柄も織る事が出来ます。
もともとは裏地から傘地やマフラー、ストールなどの製造もされていたそうですが、時代の流れとともに傘地に特化し、昭和53年には服地にも力を入れ始めます。

特に服地に対する取り組みは年々こだわりを増していき、当時の機屋としては珍しく社内にデザイン部門を設け、ファッション性を追求してきました。皆さんもよくご存知の、パリコレクションにも参加している有名ブランドとの服地の共同開発事業は早い時期から始まり、現在も続いています。そうしたクリエイティブな取り組みの中で、挑戦する企業カルチャーが育まれてきたのだと思います。

また、傘に関しては傘生地だけでなく、生地を織り、カット、縫製、仕上げに至るまで全ての工程を自社で行っています。独創的な服地を傘に使った、まるで「洋服のような傘」だと思いました。伝統の確かな技術力とクリエーションにより、今までの傘のイメージを覆す斬新なデザインのものばかりです。

現在では、そんな社風に共感して若手デザイナーが富士吉田へ移住して社員になったり、たくさんの新進ブランドとのコラボレーションも進んでいます。
また、ミラノの服地の展示会ミラノウニカにも参加し、海外のメゾンからも多数ピックアップされています。「今後はパリのプルミエールビジョンにも参加したい」と槇田さんは話されます。個性的な日本の服地が世界のファッション界にどんどん認められていく。本当に楽しみです。

富士吉田・富士山駅近くのハタオリマチ案内所で毎月第3土曜日に開催されるイベント「KIJIYA」では、槙田商店の生地が購入出来ます。
また、様々な機屋さんが一般客を迎えてくれる「オープンファクトリー」というイベントも同時開催されていますので、工場内のショップでは傘など色々な製品も購入出来ます。
世界のハイブランドも認めた槙田商店の生地を見に、是非遊びにいらして下さい。

5/19(土) 10:00-17:00
KIJIYA/ ハタオリマチ案内所
山梨県富士吉田市上吉田2-5-1
TEL 0555-22-2164

株式会社 槙田商店
〒403-0022
山梨県南都留郡南桂町小沼1-717
TEL 0555-25-3111